講演「死を考えるほど追い詰められた方にどのように寄り添うか」

10月27日、三重県こころの健康センター主催の、今年度の相談窓口対応力向上研修に参加させていただきました。参加者は、学校の先生、行政や福祉・医療機関の窓口で働く方が多いように感じました。講師は、東京学芸大学教育心理学の准教授の福井里江氏で、「死を考えるほど追い詰められた方にどのように寄り添うか」~辛さを受けとめ、生きる力をもとに見出すための実践スキル~という講題でした。福井氏は、三重県で昨年から講師としてお話をされているようで今回が3回目の講演だそうです。私(住職)は、初めての参加でしたたがとても分かりやすいお話とワークで勉強になりました。お話の最初に、「(講題に)実践スキルとありますが、相談の最前線では、ノウハウやマニュアルはありません。人としてその人にどう向き合う」かが大切なことであると仰られました。また、「生きる」ことを、呼吸と対話ととらえることも示され、自分の感覚に気づくためにマインドフルネスの効用の紹介もあり、5分ほど呼吸に集中すると会場の雰囲気も変わったように思いました。
講義は、自殺の三要因の中の自殺潜在能力を高めてしまう要因を紹介され、関わり方に焦点をあて対応方法の注意点のお話がありました。まんじゅう理論から見る承認のポイントの話は、私は初めて聞くことで全て理解ができたかと言うと十分ではないですが、「あんこ」と「皮」への質問も紹介されました。今回の「生きる」定義の1つ対話について、水平の対話(外的な対話)と垂直の対話(内的な対話)の紹介がありました。
ワークでは、自分以外の方の話し方やしぐさを知ることも大切であると教えていただきました。死にたい方への支援が大切なのは言うまでもありませんが、その家族への支援も忘れてはいけないことも改めて感じました。
相談窓口を対人支援の最先端ととらえると、僧侶を対象にした宗派の研修に取り入れることも必要と感じました。
※中川個人の感想です。

※この研修の後、神奈川県座間市で、SNSを使って多くの希死念慮者を殺害した事件の犯人が逮捕されました。詳細は調査中で現在被害者の身元が確認されているようですが、全体像はわかっていないようです。 この事件で、希死念慮者の本心をサポートできる安全な場所ができることが早急に望まれます。また、この事件でなくなられた方のご遺族へのサポートもしっかり取り組むことも考えて行かなければいけないと思います。

※希死念慮者についてのシンポジウムに参加しての感想を、お寺のHPのブログ(2016-12-25)に記載したものを再掲します。

「死にたいにまつわる言いたいようで言えないそんな気持ちのもっていきどころについてみんなでいろいろ考えるシンポジウム」タイトルが56字あるシンポジウムに参加しました。「テーマは若者」とあり還暦の私(住職)はどうしょうか思いましたが、昨年は聞くことが出来なかったので参加させていただきました。登壇者は、希死念慮者の対人支援の最前線で活動されている方々で、ライターの橘ジュンさん、精神科医の松本敏彦先生、主催者代表の竹本了悟師、進行役として毎日新聞記者として自殺問題に積極的に取り組まれている玉木達也氏の4名が前半それぞれの活動の中での気になることを共用しながらそれぞれが本音で相手に向き合っていることが伝わってきました。
後半では、会場からの質問に登壇者が答えていくのは、ライブ感のある時間で、ツイッターでのつぶやきもスクリーンに表示されて今の若者には当たり前なのかと思わずにはいられなかったです。一人一人の希死念慮の背景は複雑ですので丁寧に1つ1つ見ていくことの大切さ、社会の中で無関心層を少なくしていくことの取り組みなど対人支援の最前線で活動されている方のお話しは私(住職)には一度に全て理解できないほどのボリュームある内容でした。

ライターの橘ジュンさんは、若い女性の本音(声にならない声)を届けたいことから若い女性と出会ってこられた時に、本人が困っている状況なのに、行政や病院など支援先で本音を出さずむしろ悪ぶって支援を拒否してしまう若い女性達。若い女性が被害に合う前に一時的に避難できる場所が必要とのことや支援を受ける女性が対人支援を行っている男性には心を開くことが出来ない話は実際の活動から見えてくる提案でした。会えば素直に話ができる子と会っても話ができない子などさまざまな女性を少しでも支援先とつなぎたい思いからNPO法人BONDプロジェクトを設立された橘ジュンさんの思いをとても熱く語られました。
精神科医の松本敏彦先生には、依存(症)には、依存してしまう中で自分の存在が確かめることができる場合があるようで、その中に薬物やアルコールなども含まれるし、DVの中の関係性にも見ることができるようです。
自傷行為には、人が信じられないことや、自分に価値がないと言われ続けていたこと、勇気を出して人に頼ったがダメだった経験が、弱い自分を見せても良い場所がなく、死にたいことを、自傷することで自分の中で解決しようとしていること。自傷行為を弱い人間として見るのは間違いで、周りに迷惑をかけたくない思いも含まれていること。
希死念慮者へ「自分を大切に」「命を大切」と言う言葉が届くかと言えばそこには相手に向き合う姿勢が感じられないと難しいこともお聞かせいただきました。
主催者の京都自死・自殺相談センターの竹本了悟師は、面談や電話相談より、メール相談の匿名性によるハードルが下がったことの対応についてや当センターの事業を行っている中で慢性的人的不足に、多くの方がボランティアとして関わっていただきたいこと。僧侶として、どのような死に方にも良し悪しはないことや、ご自身の体験の中で今の時代のあたりまえが当たり前でないことや、私の中にある合理的・効率的とか自分の都合を優先してしまうお話しに考えさせられました。
毎日新聞の記者の玉木達也氏も、マスコミの中の一人として自殺対策へのこれまでの取り組みや今の現状でご自身がされていることを紹介されました。

会場には多くの若い参加者がいました。私(住職)にはそれぞれが抱えている本音を若者からみればおじさん、または老人である私(住職)に話してもらえるかと言えば決して話してもらえないと感じます。そこには関係性をどのように作り出していくかが問題となります。希死念慮者の対人支援を学ぶにあたってもグリーフケアを少しだけ学んだ私(住職)の中では、高いハードルがあるように感じています。それでも自分の中で考えていく事の1つとして大切にしたいです。
※中川個人の感想でもっと大切なこともシンポジウムでは話し合われました。